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「その腕は何だ」
ザックスが慣れた動作でノックもろくにせずアンジールの執務室に入るや否や、部屋の主に問いかけられる。
「いやー、ちょっと遊んでてさ…」
困った困った、とザックスは誤魔化す様に不器用に笑いアンジールの机へ足を進める。
アンジールはそんなザックスのガーゼが貼られた左腕を見て、眉を寄せる。
「一体何処で遊んでそんなことになるんだ?」
いつもの優しい声とは違い、少し苛立ちと怒りが混じった声で問う。
「えー、っと…」
ザックスは何やら言い難そうに口をもごつかせて、言葉を濁す。
見かねたアンジールはわざと更に眉間に皺を寄せる。
「…ザックス」
椅子から立ち上がり、すぐ側に来ていたザックスの正面に立つとまっすぐザックスを見つめ少しきつめの声色でザックスの名を呼ぶと、
叱られた子犬の様にびくりと身体を強張らせた後、諦めたのか思い切り溜息を吐くと重い口を開く。
「2ndの奴等と勝負してたんだよ。
知ってる太刀筋ばっかだったし、俺いつも勝ってたから油断してたら…その…」
なんともザックスらしい怪我の原因に思わず溜息が零れた。
しかも『いつも勝っていた』ということは、度々周りの人間と勝負していたらしい。
「でっ、でも俺その後勝ったし、怪我だってたいしたことない。
本番だって絶対油断したりしないから!」
アンジールの溜息を勘違いしたのかザックスは慌てて弁解する。
きゃんきゃん吼えるザックスの右腕を引っ張り胸の中に抱き込むと、怪我をしている左腕にやんわりと優しく触れながら呟く。
「頼むから、俺の目の届く範囲に居てくれ」
ザックスはアンジールの口から紡がれた言葉の意味を理解すると、驚いて目を見開き頭上あるアンジールの顔をまじまじと見つめる。
「あの…」
「身体が鈍って仕方ないなら俺が相手をしてやるから。
余計な心配をさせて俺を困らせるなよ」
苦笑しながら言い、そっと腕のガーゼを剥がす。
そこには既にあったであろう切り傷が最初からなかったかのように跡形もなく消えていた。
それを確認すると安堵の表情を浮かべ、もう一度労わる様に優しくて暖かい掌で腕を撫でる。
一連の動作を黙って見ていたザックスは瞬きをし、蕩けるような笑顔でアンジールを見上げる。
「うん、解った。
ありがとな、アンジール!」
これからも何をしでかすか解らないこいつから目が離せそうにないな、と何故か迷惑ではなく逆に幸せとほんの少しの心地よさを感じながら
アンジールは優しくザックスに微笑み返す。
別人警報発令中(笑)
なんだか書いてて恥かしかったです。